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計画研究C01班

【研究の最終目標】

現代物理の理論では, 基本定数 (fundamental constants) は時間や空間とともに変化しないと考えられています. しかし, 宇宙の暗黒エネルギーを説明するさまざまな革新的理論では基本定数が宇宙史的な時間スケールの中で変化する可能性も示唆されていて, 基本定数の時間変化が実験的に検出されれば, 現代物理の理論的枠組みに革命的な変革が要求されるとともに, 新たな理論構築の方向性が定まることにつながります.

【目標へのアプローチ】

基本定数の変化を検出するには, その定数が無次元で, 単位系, また単位量を定義する標準の時間変化に依存しないものを観測することが重要です. 微細構造定数αは無次元の基本定数の一つです. そして, 実験室での繰り返し測定によってαの時間変化を追跡できる方法に, 原子時計の周波数を観測する方法があります. 原子時計は, 発振器の周波数を, 原子が共鳴する電磁波の周波数, すなわち遷移周波数に一致するように制御(安定化)した装置です. 時計の周波数が時間変化すれば, それは基準とする遷移周波数が時間変化したことを意味します. 遷移周波数は原子のエネルギー準位の間隔できまり, これにαが関係しています. もしαが時間変化するならば, 遷移によってα の時間変化に対する感度が異なるために, 遷移周波数の時間変化に差が出ると理論で予測されています. そこで, 異なる遷移を基準とする2種類以上の原子時計の周波数比を継続して計測していくことで, αの時間変化を観測できることになります. 原子時計の周波数, すなわち時計の基準に用いるような原子の遷移周波数は, 秒の定義(周波数標準)に利用されているものもあるように, 非常に小さな不確かさで決めることができます. だからこそ, αの時間変化のような非常に小さい効果の検出に応用することができるのです.

【具体的な研究方法】

本研究では不確かさの非常に小さな原子時計として, 超高真空中に孤立した状態で静止させた単一のイオンを準備し, このイオンの光領域の遷移を基準周波数とする, 単一イオン光時計を構築します. このように準備されたイオンに対しては遷移周波数をシフトさせる要因が少ないため, 遷移周波数を極めて小さな不確かさで計測することが可能です. 周波数を安定化する光の発振器はレーザーです. そして, 光時計を複数種類構築して, それらの間の周波数比を継続して計測し, その時間変化を観測してαの時間変化の検出に迫ります. 具体的には, αの時間変化に対して感度が大きい, イッテルビウムイオン(Yb+)の2種類の遷移と, バリウムイオン(Ba+)の遷移, 合計3種類の光時計を構築します. 3種類を比較すると各々の周波数の時間変化を抽出できて, 時間変化はより精密に探索可能となります. たとえばもしαに季節変動があれば, 3種類で同期して変化するため明確になります. 2009年の時点で, 米国NISTでの測定から, αの時間変化は10-17/yrよりも小さいことがわかっています. すでに大変小さな値ですが, これ以下の不確かさで測定することが目標です. この目標を達成するために, イオンをトラップし操作する技術に優れた大阪大学グループ, また光時計の不確かさ低減に重要な発振線幅の狭いレーザーを開発してきた東京理科大学グループと共同研究を行います.

【進捗状況】

単一イオン光時計の開発で最初の目標は, ドップラーシフト (1) を消すために光の波長サイズよりも狭い領域に, イオンを閉じ込めることです (ラム-ディッケ領域といいます.) . これを実現するために, トラップ領域が1mm3程度の小型のイオントラップを作製してイオンを閉じ込めます. つぎに, 共鳴するレーザー光がイオンに与える力を利用するレーザー冷却という技術を用いてイオンを減速し, その動きを光の波長サイズ以下に制限します. Yb+, Ba+ともに, このラム-ディッケ領域への閉じ込めを達成しました. 2Yb+に用いているイオントラップ, 3が単一174Yb+のレーザー冷却遷移のスペクトルです. 4 (扉ページの写真も) , 複数個のBa+が冷却されて静止し, トラップ軸上に並んだときの蛍光像です. Ba+ではリニアトラップというトラップ中心が軸上に伸びたものを使っています.

このように準備した冷却イオンを用いて, Yb+では時計とする基準遷移 (時計遷移) の分光を, 単一174Yb+で開始しました. 5, 時計遷移を励起するレーザー光を照射して, レーザー冷却遷移の蛍光を観測した結果で, 時計遷移の上準位へイオンが励起されると, 観測している蛍光が消えます. 5のように, 単一イオンでは蛍光が瞬時に消えたり発生したりする量子跳躍という現象が, 蛍光強度が2値に分かれていることからよく分かります. レーザーの周波数を変えて, 量子跳躍がおきる頻度, すなわち遷移確率を計測していくと単一イオンでスペクトルが得られます. スペクトルの分解能は現時点で約20 kHzです. トラップ中のイオンの振動によりスペクトルに生じるサイドバンドも観測できるようになってきました.

【次の目標】

今後はさらにスペクトルの分解能を高め, スペクトルにレーザーの周波数を安定化し, 時計遷移の周波数シフトを評価して遷移周波数の不確かさを決定し, 光時計を構築していきます. また, 外部からの擾乱に対して周波数シフトの感度が小さいものが, 時計として優れています. Yb+Ba+では奇数同位体が磁場に対して鈍感で有望ですが, 偶数同位体より準位構造が複雑でレーザー冷却など操作が難しくなります. ごく最近, 我々は同位体171Yb+でほぼラム-ディッケ領域への閉じ込めを達成しました. この同位体の利用も今後の重要な課題です.   

 

 

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1 光時計の周波数比計測の概略図

 

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2  Yb+用イオントラップ

 

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3  単一174Yb+の冷却遷移のスペクトル。幅は自然幅10 MHzと飽和幅でほぼ決まっている.

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4 トラップ軸上に配列した138Ba+ (クーロン結晶) の蛍光像

 

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5 単一174Yb+の量子跳躍信号